神経科学とバイオメカニクスを融合するということは?

みなさま,おつかれさまです,舟波真一です。

コラムで統合的運動生成概念,本日は「神経科学と生体力学の相互関係」について考えていきます。

地球においては、重力の恩恵にあずかることができるために、我々の運動生成の多くは床反力を生みだすことで成り立っています。

走行を例に、運動生成における出力と入力の関係を示します。下図をご覧ください。

神経系は、体の運動効果器に命令を送ることで床という環境に対して働きかけることができるが、これは出力系であり赤線で示しています。

床という環境に対して出力を行えば必ずそこから反力が返って来ます。それが床反力です。

床という環境から帰ってくる床反力は、身体の感覚受容器を介し、感覚情報として神経系に入力されます。

従ってこれは入力系であり青線で示しています。

定常状態でうまく運動が行えているということは、この出力系と入力系の力のベクトルがほぼ一直線上に位置して釣り合っている状態です。

時間的変化を伴いながらも一直線上でつりあい続けようとする入力系と出力系それぞれのベクトルにおいて、中枢神経系、身体、環境の3要素すべてが関与しているので、これら3要素すべてがそれぞれその時々の運動を決定する変数として欠かせません。

従って、そもそも力学的考察においては、神経・身体・環境を明示的に分離して扱ってはならないということになります。

神経系、体、環境はそれぞれがゆたかなダイナミクスをもっています。常に変化している、動的であるということです。

神経系の振る舞いは、時々刻々と変化しています。

脳波、Functional MRI、近赤外線分光法(NIRS)で記録されるデータからみても明白です。

また身体では、心臓が力強く拍動し呼吸も行われています。

さらには栄養状態や外傷などで体の粘性・弾性といった力学的な状態も変化します。

環境が豊かなダイナミクスを持つことはいうまでもなく、床や地面のみをとっても、天気によってぬかるむこともあるし、硬い床ややわらかい床など様々な変化をみることが出来ます。

このように豊かなダイナミクスをもっている3つの要素が変数となって、その一瞬一瞬の運動が決定されているのです!

仮に床反力が発生しない空中や水中での運動生成であっても、

環境からの情報が運動に影響を及ぼすことにかわりはなく、

神経・体・環境の3要素はリアルタイムに相互に影響しあっているので、

やはり3要素を明示的に分離することは認められません。

この世に存在するあらゆる系は絶え間なく時間的に変化し、発展しています。

このことは原子や分子の躍動するミクロな世界をはじめ、大気や海水などの流体系の振る舞い、さらに惑星の運動や膨張を続ける宇宙のことなどを思い浮かべれば明らかです。

われわれ自身の生命も、力強く拍動する心臓や、食物を消化運搬するために蠕動する胃腸系、さらにさまざまな情報を処理するために発火を続けるニューロンの集団(脳)など、諸種の生理学的な系のダイナミックな活動に支えられています。

このように時間発展する系を力学系とよび、このような時間的発展は非線形な振る舞いです。

非線形を簡単に説明すると「簡単には解けない」ということで、

その振る舞いを解析し法則化によって説明しようとする学問を非線形力学という。

人間は分かっていない部分が多く,常に変化し続けているので,非線形力学のなかで考えていかなければならないのです。

人の構造や運動を力学的に探究したり、

その結果を応用することを目的とした自然科学が生体力学(バイオメカニクス)です。

人の運動を力学的に考察するのに、神経系、体、環境の3要素のすべての変数が必要であり、

その、いち要素である神経系に関する研究を行う神経科学は、

当然、生体力学(バイオメカニクス)に包含されていてしかるべきであるといえるのです。

 

バイオメカニクスと神経科学を一体的にとらえる必要があることを理解できる興味深い研究があるのでご紹介いたします。

上図Aにあるように、身体重心を完全に動かないように固定した場合にどのようにCOP(床反力)が変化するかを調べた研究です。

人体にとってはこのような固定機器は環境にあたります。

骨盤部固定という環境の変化は身体重心の動揺を完全に抑制することになります(B上段)。

そのことは身体をとおして神経系に感覚として取り込まれて即座に床への筋出力を変化させます。

このことによってバイオメカニクスにおいて観察されるCOP前後動揺は、逆に増大しました(B下段)。

バイオメカニクスから考えると身体重心の動揺が完全になくなったのだから、

それを補正するCOPは必要ないはずですが、結果は全く異なるものでした。

人の運動は片一方からの考察のみではたちゆかない、非線形であるといえます。

神経・体・環境を一体的にとらえること、

そして、バイオメカニクスと神経科学を融合しないと運動生成は語れない、

ということをご理解いただけたでしょうか?

 

BiNI COMPLEX JAPAN 舟波真一でした。

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